「お母さんが小児科医だと安心ねー!」と、ママになってよく言われるが、ぶっちゃけ小児科医だからって子どもが病気しないわけじゃないし、私も家に帰ればただのかーちゃんで、ちょっとした子どもの変化にワタワタしている。
小児科ママで良かったと思うこと
たしかに、実際に自分が小児科医ママでよかったなと思うことはいくつかある。
一つは、子どもの処方。
通常であれば、保育園から「熱出ましたー」と電話があると、まず職場に頭を下げまくった後に保育園に迎えに行き、熱でほかほか&ぐずる子どもをかかえて、小児科へ行く。さんざん待たされた挙げ句、「まぁ風邪かねー。熱出てすぐは検査してもあんま意味ないし、できること少ないのよねー。」的な扱いを受け、とりあえず解熱剤を処方してもらう。受診の結果を保育園と職場に電話し、明日○時にまた子どもの様子を見て電話します、と。場合によっては病児保育に申し込んだり、祖父母にヘルプを求める連絡を・・・としているうちに夕方になり、帰宅してくる夫のためにご飯を準備したり、洗濯物をまわしたり・・・。 子どもが朝に熱を出すだけで、こんな感じで一日があっというまに潰される。
私もお熱コールがくると、「ほんっとにすみません!!!」と90度に頭を下げながら保育園に迎えに行くところまでは変わらない。が、その後自分で「あ、家に解熱剤なかったわ。出しとこ。」的なノリで、自分の子どもに必要な処方をすぐ出すことができる。迅速検査のキットを子どもの鼻や喉に自分でつっこんで、検査もできる。受診する時間のロスがないのは、かなり大きいアドバンテージ。
さらに第一子のときは職場の保育園だったこともあり、どうしても仕事に穴が開けられず、かつ病棟の部屋が空いているときは、自分の仕事が終わるまで入院という形で子どもを預けることができた。廊下まで聞こえる我が子の泣き声を聞きながら仕事するのは精神的にはこたえるものの、とりあえず必要な仕事ができる、という意味では助かった。
病棟のナースたちにも「まー大きくなったねぇ」などとかわいがってもらい、息子的にも一石二鳥だったと信じたい。こういう子どもの変化にすぐ対応できるという意味では、正直、小児科医になって良かったと強く思う場面の一つである。
外来はママ同士の情報交換の場
あとは外来のママさんたちと、ママ友感覚で話せるのはなんだか楽しいなと思うときがある。「あーよかった、先生も離乳食レトルト使ってるんだ」とか、出産間近の外来で産着のお下がりをいただいたりとか、子どもを通じてほどよく距離感が近い感じが、私は好きである。育児グッズの情報も、外来でだいぶ仕入れた。外来のお子さんが、アンパンマンジュースを、握りつぶしてこぼさないようにジュースケースに入れているのをみて、はじめてそういうグッズがあるのを知ったし、歯固めのバナナ型のシリコンおもちゃも外来で初めて知った。生後3か月で復帰したのもあり、ママ友がいない私にとって、外来でのこうした時間が貴重なママ同士の情報交換の場でもあった。
お母さんの気持ちに寄り添える
さらに、小児科医がママになると、お母さんの気持ちに寄り添える・・・というのは、月並みな言葉だがたしかにそうだなとは思う。夜中にいきなり高熱を出されたときの、なんとも言えない不安な気持ち。「明日の仕事どうしよう、病児保育もうしこんどこうかな、兄弟にうつるかな、朝まで待ってて大丈夫かな・・・」仕事中に熱で呼び出されたときの、やりきれない気持ち。子どもが悪いわけじゃないし、一番しんどいのは子どものはずなのに、仕事もできずに頭をさげて引き上げなきゃいけず、なんだかイライラしてしまう自分に、またイライラ。
私自身も妊娠・出産・ワーキングママを経験してはじめて、こうした気持ちが手に取るようにわかった。もちろん子どもがいない小児科医の先生だって、こういうママに寄り添える人はたくさんいるし、家庭の事情や千差万別だから、人の気持ちをわかったつもりになるのはよろしくない。が、女性としての自分の経験が少しでも仕事に活かせるというのは、自信やモチベーションアップにもなる。
小児科ママで損しているのではと思うこと
逆に、お母さんが小児科医だから、損しているんじゃないかと思うこともある。小児科の外来はウイルス・細菌まみれでかなり汚い。仕事をして帰ると、間違いなく各種ウイルス・細菌を自宅に持ち帰ることになる。保育園も負けず劣らず汚いとは思うが、子どもに余計な病原体曝露をしていないか気になるときはある。
また、妊娠中の小児科外来はかなりキツい。ワクチンを打とうと思えば子どもに蹴られる。妊娠で免疫が弱り、感染症にかかりやすくなっている中、おもいっきり顔面にくしゃみをぶち巻かれたり、嘔吐物を真に受けたりする。実際に妊娠中はかなり感染症との戦いで、第二子妊娠中はインフルエンザ+胃腸炎で、高熱と嘔吐がつづき、お腹の中の子とともに死ぬんじゃないかと思うくらい体力をそがれた。それでも健康に子どもは産まれてきてくれるのだから、人類とはすごいなと思う。
また、これは個人差があると思うが、心配性な私は、小児科医ゆえに子どもについて様々なマイナスの可能性を考えてしまい、不安になることがある。基本的に、小児科医が立ち会う分娩は危ないお産が多い。「分娩中に赤ちゃんの心拍が落ちたから来てください。」「産まれたら赤ちゃんが息をしていないです、来てください。」「緊急帝王切開になりました、立ち会ってください。」(もちろん助産師さんや産婦人科の先生の尽力あってのことだが)なんでもなく産まれてくるお産がほとんどのはずだが、危険なお産ばかり見ていると、自分の身にいざ降り掛かってくるんじゃないかという気持ちになる。
私は妊娠中から、なにかこの子に先天性の病気があるんじゃないか・気づいたら死産になっているなじゃないかと不安になり、分娩中も回旋異常で子宮破裂して母体ショック状態になったらどうしようと不安になり、産まれた後も息してるか・なにか奇形がないかと不安になり・・・と、常に病気のことを考えてしまう癖がある。実際に子どもが産まれたときは、第一子・第二子とも全く感動せず涙も出ず、「あぁとりあえず無事に妊娠・分娩・出産できてよかった」と、不安から開放された良かったぐらいの気持ちしかなかった。
周囲に気を使わせているのでは
ママが小児科医、というせいで、いろんな方に気を使わせるのも、申し訳ないなぁと思う。「え、お母さんドクター、しかも小児科なんですか!」「お母さん申し訳ないんだけど、一応、園の決まりで受診させてほしくて・・・先生のお母さんに言うのもごめんなさいねぇ」などと、いつも保育園の先生には気を使わせている。
義理のお母さまも「もうプロだものねぇ何も言えないわぁ」と育児に一切口出しせず、相当に気を使っていただいているのをひしひしと感じている。妊娠中も助産師さんがなにか言うたびに「先生もうわかってると思うけど~」と申し訳なさそうに色々説明してくれるが、ぶっちゃけ小児科医でも育児については素人だから、ぜひぜひ普通に教えてくださいって感じだった。ただ、第一子をとってくださった助産師さんは面白く、私が小児科医、夫も医師であることをとても上手に利用していた。分娩台にあがった私に、(準夜帯で人手が足りなかったこともあり)「ちょっとパパ!ママに血圧計巻いてくれる?」と完全にスタッフ扱い。出産後、子どものマススクリーニングの検査のときは「あ、ちょっとママ!っていうか先生、ガスリーやってく?」的な軽いノリで、子どもの検査を私にさせようとしていた。気を使われるよりは、こんな感じで利用されたほうが、まだ私は気楽で良かった。
と、ママが小児科医でいいこと・そうでもないことを並べてみたが、総じてみると、まぁお得なことも多いかな、という感じである。あらためて、ママにしてくれた二人の息子たちと、パパに感謝である。ちなみにパパが小児科医だと、奥さんからの評価が多少アップするかと思ったが、職場のパパ小児科医にきいてみると「え?僕、家庭内ヒエラルキー最底辺だよw」とのこと。奥さん厳しいっす。
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